2025年6月6日 おのれのために

もう40年以上前から、堀江謙一さんと親しくさせて頂いている。

堀江謙一さんが、少なくとも記録に残る人類として初めて、たった一人で日本の本州・西宮から北米大陸のサンフランシスコまでの太平洋を渡ったとき、ぼくは北九州に住む小学一年生だった。

社会人になりたての頃に、ヨット〈ひねもす〉で世界一周を果たした国重光煕さんから、堀江さんを紹介して頂いた。小柄な身体には精力がみなぎっていて、目のチカラがとても強いことが強く印象に残った。その頃堀江さんは、奥様とふたりでの地球縦周り航海の途中で、北極を越えるレグが冬季になって海が凍って閉じ込められ、春を待つ間一時帰国していたときだったのではなかったかと記憶する。

定期的にお会いするようになってから、堀江さんと二人でお酒を飲む機会も増えた。最初の乾杯のとき、堀江さんは目ヂカラの強いあの目をギョロリと開いてぼくの目を見ながら、「おのれのために」とグラスを上げた。わー、そういう乾杯の音頭があるんだ、と思った。どこか別のところで真似したい、と思ったが、まだ実行できたことがない。というか、今後も言えそうにない。

そろそろまた、堀江謙一さんのあの目を見て、あの言葉を聞きながら、最初の一杯を飲みたいな。